アロマテラピー
取材を兼ねての滞在なので、有馬での日々もそれなりにせわしなく過ごしてしまう。
仕上げは、嬉しいことに、なんと!アロマテラピーのご褒美プログラムが待っていた。
[アロマテラピーBI(ビーアイ)]にて、全身コースを堪能する。さまざまなオイルの中から、好みや体調に合わせてゼラニウム、ラベンダー、ローズマリー、ティートゥリーを合わせたオイルをブレンドしてもらう。
心地よい香りに包まれて、凝りが優しくほぐされていく、まさに至福のひととき。
残念なのは、せっかくの最上の施術を、しっかり覚醒して体験したいのに、誘惑に負けてぐっすり深く眠ってしまったこと。さすがプロの施術だなあと悔しいながらも感心する。
芯の深いところから凝りがすっかりほぐれて、おかげで心身が柔らかく、ととのった気がする。
心身の疲れを芯から解放
ハーブの香りと成分、手の温もり、手わざを駆使して身体をほぐし、体液の流れを促し、若さをよみがえらせる...
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番外編:有馬エリア墳活
古墳と古代を愛するライターとしては、その地域の古墳を表敬訪問するのは、私にとってデフォルトだ。滞在中に古墳、古墳と言い続けたおかげか、有馬温泉近辺の古墳を訪れる幸運に恵まれた。
Googleマップを頼りに、神鉄道場駅のすぐ近くの丘陵地を登っていくと……あった!
北神第3地点古墳。6世紀中頃の築造で、墳丘長は36メートル。立派な前方後円墳だ。埋葬施設は左片袖式の全長8.6メートルの横穴式石室。整備された古墳だが、古墳は古墳だ。墳頂に登ると、古代のリーダーたちの気分になるのはいつものこと。
すぐ近くの北神第2地点古墳は6世紀後半の築造で直径17メートル。こちらはなかなか立派な円墳だ。両袖式の横穴式石室を持ち、石室内からは須恵器(すえき)、土師器(はじき)、鉄鏃(てつぞく)、水晶製勾玉(まがたま)、琥珀製棗玉(こはくせいつめだま)、ガラス玉、臼玉(うすだま)、耳環(じかん)などの多数の副葬品が出土している。
至近に築造された2基の古墳の被葬者は、関係性が深かったはずだ。
古墳と地理・地形の関係も面白い。
近くには六甲山系を水源とする長尾川や八多川(はたがわ)、有野川、有馬川が流れ、それらがやがて一つになって武庫川に流れ込んでいく。
またこのあたりは、古代より、大和〜大阪から、福知山を経由して日本海へと抜ける交通の要衝でもあった。まさに、水運を掌握したリーダーたちの墳墓といえる。
2基の古墳からそう遠くない山の中に、もう1基の古墳があった。
青石(あおいし)古墳は、山口町から有馬川を越え、東側の山の中へ分け入ったハイキング道沿いに築造されている。直径約13メートルの円墳で、横穴式石室が開口している。
須恵器、土師器、鉄釘(くぎ)などが見つかり、7世紀に築造されたことがわかった。
石室に入ると、真ん中が膨らんだカーブを描くような石積みで、胴張型の石室ということがわかる。鉄釘が見つかっていることから、棺(ひつぎ)は木棺だったと考えられている。
どんな被葬者がこの山中に眠っていたのだろうか。
日本書紀によると舒明(じょめい)天皇が有馬に行幸したとされている。飛鳥時代という時代を考えると、もしかすると北神第3地点古墳と第2地点古墳の被葬者が、地元の豪族として、天皇を迎え、もてなした側の人? とも考えられるだろう。有馬の湯は、高貴な人をもてなすのにこの上なく素晴らしいもので、地元の民にとっても誇らしい財産だったはずだ。そんな妄想が楽しめるのも古墳のいいところだ。
古代から歴史が脈々と続く最古の名湯、有馬温泉。3基の立派な古墳は、この地の確かな歴史をしっかりと物語ってくれている。
―クア・プログラム体験を終えてー
素晴らしかった……! なんというか、大げさでなく、リフレッシュして心身が生まれ変わった感がある。そして、「働くということ」、「休むということ」、「遊ぶということ」の関係性が、自分の中で大きく変化して、動いた。
コロナでさまざまな価値観が変わったといわれるけれど、「有馬・クアワーケーション」は、「働いて生きること」の新しい価値を教えてくれたと思う。
有馬温泉は、そこはかとなく「洗練」を感じさせる温泉町だ。立ち並ぶ店々の雰囲気、みやげ品の一つひとつに、なんというかエレガンスを感じてしまう。
洒落たカフェや美味しい飲食店も多く、シニアに交じって若い人たちも楽しげに歩いている。私が好きな、古墳や遺跡巡りに欠かせないモンベルの店などもあって、街歩きだけでも楽しい。
とにかく「センスいいなあ」と思う瞬間が多々訪れるのだ。
それは、たぶん、神戸=阪神間に近く、その奥座敷という立ち位置が深く関係していると思う。大阪や神戸の名士をはじめ、文人墨客に愛され、その要求に応えるだけの文化的な底力を持っているのだと思う。
閉ざされた中で深化していったのが京の文化だとすれば、有馬は「開かれた」おおらかな境地の中で、エレガンスと洗練度を磨いてきたのではないかなと思う。
その有馬温泉が用意したクア・プログラムは、やはり確かなクオリティとセンスが満ちていた。伝統的、文化的な要素、癒し、懐かしいもの、今どきの新しい感覚、インドア、アウトドアの魅力に満ちたプログラムは、“体験すること”の面白さに満ち満ちて、“学び”の要素もしっかりとあって充足度が高い。
そして……ちょっと疲れたなと思えば、渾々と湧く金泉、銀泉にゆっくり浸かることができて、クアの素晴らしさを堪能できる。
クア・プログラムはさらに増えて、30種ほど用意されている。《ウェルネウォーキング》、《有馬温泉歴史講座》、《和ハーブの癒しとパワー》、《有馬歴史講談》《温泉コンサート》などなど、興味深いプログラムが続々登場する予定だ。負けず嫌いゆえか、つい、コンプリートを目指したくなる。
今までの温泉の楽しみ方、旅館やホテルに籠もって、ひたすらゆっくり・まったり過ごすという温泉ライフももちろんいい。けれど、クアワーケーションのような、既存の湯治のイメージを大きく変えて、「働くし、遊ぶし、お湯にも浸かるし」という、軽やかスタンスで愉しめる温泉もすごく面白い。
神戸や大阪から近く、移動しやすいのも、クア・ワーケーションにぴったりの条件だろう。何かあればすぐにオフィスに戻れるし、またすぐこちらに来ることもできるのだから。
プチ・リボーン。
数日間、「働くし、遊ぶし、お湯にも浸かるし」をやってみて、ちょこっと生まれ変わった気分になれて、爽快感が満ちてくる。元気になれる。
今、まさしく温泉の過ごし方の新たな扉が開かれつつあるんだな、と思う。
ほらね、やっぱり“開かれた”場所なんです、ここは。
郡 麻江(こおり・まえ)
出版社勤務を経てライター。ユネスコ世界遺産に認定された百舌鳥・古市古墳群を『ザ・古墳群〜百舌鳥と古市 全89基』(140B)に、関東1都6県の古墳約170基を『日帰り古墳 関東1都6県の古墳と古墳群102』(ワニブックス社)に取材・執筆。いずれも現地を専門家と共に巡った。2020年に「旅程管理業務主任者(総合・国内)」を取得。ライター業の傍ら古代および世界遺産専門ツアーの添乗員にも従事。「日本旅のペンクラブ」会員。京都在住。