1400年の温泉地でブラボー!な体験漬けの
7日間
【7日目】
  • 癒される
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最後に「癒し」が待っていたとは!

有馬・クアワーケーション 
体験レポート

古墳と古代オタクのライターが、有馬温泉が取り組んでいる「有馬・クアワーケーション」を体験。取材をし、温泉に浸かり、
美味しいものを食べ、さまざまに用意された愉しきプログラムに参加した充実の日々をレポートに綴ってみた。

アロマテラピー

取材を兼ねての滞在なので、有馬での日々もそれなりにせわしなく過ごしてしまう。
仕上げは、嬉しいことに、なんと!アロマテラピーのご褒美プログラムが待っていた。

[アロマテラピーBI(ビーアイ)]にて、全身コースを堪能する。さまざまなオイルの中から、好みや体調に合わせてゼラニウム、ラベンダー、ローズマリー、ティートゥリーを合わせたオイルをブレンドしてもらう。

心地よい香りに包まれて、凝りが優しくほぐされていく、まさに至福のひととき。
残念なのは、せっかくの最上の施術を、しっかり覚醒して体験したいのに、誘惑に負けてぐっすり深く眠ってしまったこと。さすがプロの施術だなあと悔しいながらも感心する。
芯の深いところから凝りがすっかりほぐれて、おかげで心身が柔らかく、ととのった気がする。

アロマテラピー 心身の疲れを芯から解放

心身の疲れを芯から解放

ハーブの香りと成分、手の温もり、手わざを駆使して身体をほぐし、体液の流れを促し、若さをよみがえらせる...

番外編:有馬エリア墳活

古墳と古代を愛するライターとしては、その地域の古墳を表敬訪問するのは、私にとってデフォルトだ。滞在中に古墳、古墳と言い続けたおかげか、有馬温泉近辺の古墳を訪れる幸運に恵まれた。

Googleマップを頼りに、神鉄道場駅のすぐ近くの丘陵地を登っていくと……あった!
北神第3地点古墳。6世紀中頃の築造で、墳丘長は36メートル。立派な前方後円墳だ。埋葬施設は左片袖式の全長8.6メートルの横穴式石室。整備された古墳だが、古墳は古墳だ。墳頂に登ると、古代のリーダーたちの気分になるのはいつものこと。

すぐ近くの北神第2地点古墳は6世紀後半の築造で直径17メートル。こちらはなかなか立派な円墳だ。両袖式の横穴式石室を持ち、石室内からは須恵器(すえき)、土師器(はじき)、鉄鏃(てつぞく)、水晶製勾玉(まがたま)、琥珀製棗玉(こはくせいつめだま)、ガラス玉、臼玉(うすだま)、耳環(じかん)などの多数の副葬品が出土している。
至近に築造された2基の古墳の被葬者は、関係性が深かったはずだ。

古墳と地理・地形の関係も面白い。
近くには六甲山系を水源とする長尾川や八多川(はたがわ)、有野川、有馬川が流れ、それらがやがて一つになって武庫川に流れ込んでいく。
またこのあたりは、古代より、大和〜大阪から、福知山を経由して日本海へと抜ける交通の要衝でもあった。まさに、水運を掌握したリーダーたちの墳墓といえる。

2基の古墳からそう遠くない山の中に、もう1基の古墳があった。
青石(あおいし)古墳は、山口町から有馬川を越え、東側の山の中へ分け入ったハイキング道沿いに築造されている。直径約13メートルの円墳で、横穴式石室が開口している。
須恵器、土師器、鉄釘(くぎ)などが見つかり、7世紀に築造されたことがわかった。
石室に入ると、真ん中が膨らんだカーブを描くような石積みで、胴張型の石室ということがわかる。鉄釘が見つかっていることから、棺(ひつぎ)は木棺だったと考えられている。
どんな被葬者がこの山中に眠っていたのだろうか。

日本書紀によると舒明(じょめい)天皇が有馬に行幸したとされている。飛鳥時代という時代を考えると、もしかすると北神第3地点古墳と第2地点古墳の被葬者が、地元の豪族として、天皇を迎え、もてなした側の人? とも考えられるだろう。有馬の湯は、高貴な人をもてなすのにこの上なく素晴らしいもので、地元の民にとっても誇らしい財産だったはずだ。そんな妄想が楽しめるのも古墳のいいところだ。

古代から歴史が脈々と続く最古の名湯、有馬温泉。3基の立派な古墳は、この地の確かな歴史をしっかりと物語ってくれている。

―クア・プログラム体験を終えてー

素晴らしかった……! なんというか、大げさでなく、リフレッシュして心身が生まれ変わった感がある。そして、「働くということ」、「休むということ」、「遊ぶということ」の関係性が、自分の中で大きく変化して、動いた。
コロナでさまざまな価値観が変わったといわれるけれど、「有馬・クアワーケーション」は、「働いて生きること」の新しい価値を教えてくれたと思う。

有馬温泉は、そこはかとなく「洗練」を感じさせる温泉町だ。立ち並ぶ店々の雰囲気、みやげ品の一つひとつに、なんというかエレガンスを感じてしまう。
洒落たカフェや美味しい飲食店も多く、シニアに交じって若い人たちも楽しげに歩いている。私が好きな、古墳や遺跡巡りに欠かせないモンベルの店などもあって、街歩きだけでも楽しい。
とにかく「センスいいなあ」と思う瞬間が多々訪れるのだ。

それは、たぶん、神戸=阪神間に近く、その奥座敷という立ち位置が深く関係していると思う。大阪や神戸の名士をはじめ、文人墨客に愛され、その要求に応えるだけの文化的な底力を持っているのだと思う。
閉ざされた中で深化していったのが京の文化だとすれば、有馬は「開かれた」おおらかな境地の中で、エレガンスと洗練度を磨いてきたのではないかなと思う。

その有馬温泉が用意したクア・プログラムは、やはり確かなクオリティとセンスが満ちていた。伝統的、文化的な要素、癒し、懐かしいもの、今どきの新しい感覚、インドア、アウトドアの魅力に満ちたプログラムは、“体験すること”の面白さに満ち満ちて、“学び”の要素もしっかりとあって充足度が高い。
そして……ちょっと疲れたなと思えば、渾々と湧く金泉、銀泉にゆっくり浸かることができて、クアの素晴らしさを堪能できる。

クア・プログラムはさらに増えて、30種ほど用意されている。《ウェルネウォーキング》、《有馬温泉歴史講座》、《和ハーブの癒しとパワー》、《有馬歴史講談》《温泉コンサート》などなど、興味深いプログラムが続々登場する予定だ。負けず嫌いゆえか、つい、コンプリートを目指したくなる。

今までの温泉の楽しみ方、旅館やホテルに籠もって、ひたすらゆっくり・まったり過ごすという温泉ライフももちろんいい。けれど、クアワーケーションのような、既存の湯治のイメージを大きく変えて、「働くし、遊ぶし、お湯にも浸かるし」という、軽やかスタンスで愉しめる温泉もすごく面白い。
神戸や大阪から近く、移動しやすいのも、クア・ワーケーションにぴったりの条件だろう。何かあればすぐにオフィスに戻れるし、またすぐこちらに来ることもできるのだから。

プチ・リボーン。
数日間、「働くし、遊ぶし、お湯にも浸かるし」をやってみて、ちょこっと生まれ変わった気分になれて、爽快感が満ちてくる。元気になれる。
今、まさしく温泉の過ごし方の新たな扉が開かれつつあるんだな、と思う。

ほらね、やっぱり“開かれた”場所なんです、ここは。

郡 麻江(こおり・まえ)
出版社勤務を経てライター。ユネスコ世界遺産に認定された百舌鳥・古市古墳群を『ザ・古墳群〜百舌鳥と古市 全89基』(140B)に、関東1都6県の古墳約170基を『日帰り古墳 関東1都6県の古墳と古墳群102』(ワニブックス社)に取材・執筆。いずれも現地を専門家と共に巡った。2020年に「旅程管理業務主任者(総合・国内)」を取得。ライター業の傍ら古代および世界遺産専門ツアーの添乗員にも従事。「日本旅のペンクラブ」会員。京都在住。

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